NIHON KOGEIKAI

重要無形文化財「竹工芸」伝承者養成研修会

講師:早川尚古齋(重要無形文化財保持者)

平成20年 9月23日更新


要 旨

 竹工の分野は古くは縄文、弥生の時代から天平時代を経て、近世に入ると唐物尊重から日本独自の伝統的な技法と共に、作者の個性的な表現で作品が生まれて、美術工芸としての地位を確立し今日に至っています。 今回の研修会では主として、組み技法による「切込透文様」と「矢羽根文様」の技法を実習に取り入れ、各自が文様のデザインを考えて作品に仕上げてもらいました。

 研修会の参加者はそれぞれ異なった技法、技術を習得して今日に至っている方々で、今回の研修内容が絶対的なものでないにしても、各自が何かを感じ取って今後の作品制作に役立ててくれれば更なる展開につながると思う次第です。

                          重要無形文化財「竹工芸」保持者
                                    早川尚古齋


 国庫補助による平成18年度、19年度重要無形文化財「竹工芸」伝承者養成研修会が重要無形文化財保持者の早川尚古齋氏を講師に迎えて行われた。


竹の下拵え、表皮を削る。
研修生は通常、磨き庖丁で行っているが、早川家で代々伝わる小刀で削る方法を習う。


 期 間 平成18年 11月 6日〜10日(5日間)
     平成19年 11月 5日〜 8日(4日間)

 場 所 早川宅 京都市左京区

 受講生 7名
 助 手 2名

 内 容 初年度    竹の下拵え、「矢羽根文様」「切込透文様」の習得。

     次年度    初年度の研修を基に作品を制作。
            それを持ち寄り意見交換、作品の着色、艶出し、銹付け。


 第1年次(平成18年)

 工程のポイントとなるところを指導していただき、その後研修生が実習を行う。



組技法「矢羽」の習得。
灯油ランプ「ホヤ」の上で材料を柔らかくし、「く」の字に曲げた矢羽竹を作る。

11月 6日

 これから行う研修内容の説明を受け、近くにある下鴨神社に全員で参拝。後、研修受講にあたっての意見交換行う。

11月 7日

 竹の下拵え、表皮を削る。早川家は代々竹の表皮は小刀で削るとのこと、研修生助手全員表皮は磨き庖丁を使っているため初めての経験となる。水平の台の上を小刀を動かし、節間の半分ずつ方向を変えて進めていく。先生の実演の後、各自削ってみるが小刀が安定せず悪戦苦闘。先生の小刀を借りて使ってみるとうまくいくことから、刃物が重要との結論に達する。小刀で削った方が表面の艶がいいため、艶出しの工程において差が出るとのこと。午前中この作業を繰返す。午後からは、竹割り、小割り、厚みぎめと進む。ここでも裏面削りは小刀できめるため、研修生はまた苦労することとなる。幅ぎめ、面取りと進み下拵えを終える。


組技法「矢羽」の習得。
「く」の字に曲げた矢羽竹に穴をあけ、極細の籐でかがり留めをする。

11月 8日

 組技法「矢羽根文様」の習得。平竹幅4ミリ厚さ0.8ミリ長さ10センチを10本用意する。中心に印を付け、灯油ランプ「ホヤ」の上部に竹を置き、全体が柔らかくなった時点で一気に曲げる。曲げる角度は平仮名の「く」の字程度、両端は表皮部分が上にくるように、中央が盛り上がった状態の時水に付けて、形を留める。10本曲げた後、山になった中央に、0.8ミリのドリルで穴を開ける。同様に裏に当てる平竹にも6ミリ間隔に穴を開け、極細の籐で矢羽と裏に当たる竹とをかがって留めていく。この時表に籐が出ないようにするのが重要。さらに平竹を井桁に組み、矢羽の両端を留める枠を作り、両端を籐でかがって留める。枠から出た部分は鋏で切り、これで組み見本が完成。


組技法「透文様」の習得。
透文様の竹を作るため、表現したい透模様をグラフ用紙にデザインする。

 11月 9日

 組技法「切込透文様」の習得。平竹幅6ミリ厚さ1ミリ長さ30センチを8本用意する。まずグラフ用紙に10ミリ等間隔9本、30センチ以上の縦線を引き、中央に中心線を入れる。縦線の間に1から8までの番号をつけ、その線上に自分が表したい透模様をデザインする。用意した竹をその図面の上に、中心線を合わせて置き、透彫りを入れる位置を決定。図面と同じ通し番号を竹にも付けておく。刳る部分の形を統一するため、竹で型を作り、その型をさきほど位置を決定した竹に合わせ、細いエンピツで写し取り、小刀で刳っていく。先の細い箇所は幅ギメを使い同じ幅にする。裏に当てる3本の竹を用意し、番号順に中央をかがる。中心に当てる竹は2枚に剥いでおくと籐の端の処理に便利。


組技法「透文様」の修得。
透彫りを入れた竹を組み合わせて籐でかがり留めを行う。

 11月10日

 前日の続き、透模様上下のかがりを留め完成する。各自仕上がった作品の講評を受ける。この日が1年次の最終日ということで、翌年、ここで習得した技法を使い、作品を1点制作してくるとの課題が出される。


 第2年次(平成19年)

 課題の講評、籃の着色法、艶出し、銹付け。



着色の実習。煮沸した染料に籃を入れ、柄杓でかけながら着色する。
一日かけて自然乾燥させた籃にブラシをかける。

 11月 5日

 籃の着色。一同裏手にある庭に移動。早川家も昔は梅汁を使用したとのこと。梅汁とは、紅梅の芯の赤い部分を枯らしてから煮出した物。現在では入手困難のため化学染料を使っている。煮沸した染料に見本の籃を入れ、柄杓でかけながら色斑ができないよう回転させる。青竹の場合はあらかじめ油抜きをしておくようにとか、曇りの日に行う方が色を判別しやすいとの注意を受ける。色は赤と黒の染料を混ぜて使用。媒染、定着液は使用しない。30分ほど染色した後、余分な染料を落とすため丁寧に水洗い。そして一日かけて自然乾燥させる。翌日、艶出しに使うイボタ蝋の用意。木綿の布に、イボタ蝋を薄く広げ包んだタンポンで布に摺り込んでいく。残ったイボタ蝋は元に戻し、布を石油ストーブの上にかざし蝋成分を布に浸み込ます。蝋が溶けると少し変色するので、それを目安とする。


籃の艶出し。木綿の布にイボタ蝋を薄く広げ布に摺り込む。
石油ストーブで布を温め蝋成分を布に浸み込ます。この布で籃の表面を磨く。

 11月 6日

 籃の艶出し。前日染色をして乾燥させた籃を、硬く水気を絞った布で、色が落ちないように丁寧に拭く。これほど念を入れるのは、花を生けた時水が飛び、籃から染料が浸み出さないためである。これは籃に漆をかけないことから、特に注意しているとのこと。さらにブラシをかけ、前日に用意した、イボタを浸み込ませた布で表面を磨くと艶が出てくる。漆をかけない時は、この作業が最後の工程となる。


課題作品の意見交換。
組技法「矢羽」及び「透文様」を取り入れた各自の課題作品について意見交換と先生からの講評を受ける。

 午後からは課題作品を持ち寄り意見交換、先生の講評を受ける。テーブルを出し一人ずつ作品を提出、半分仕上がっている人、漆まで塗って完全に仕上がっている人、作品も盛籃から花籃までバラエティにとんだ作品が集まった。先生から講評がなされ、主に籐かがりの位置の重要性、籃全体から受ける透かしがしめる空間のバランス、外縁の太さなど細かい点まで指導が行われた。今までの研修会では一つの同じサンプルを作ることが多かったが、今回は自由な発想で作品に挑めたことが、良い結果につながったとのこと。


籃の銹付け。
早川家に伝わる銹付けで砥の粉を磨り潰して水を加え、溶いた膠と墨汁を加え刷毛で塗り付ける。

 11月 7日

  籃の銹(さび)付け。最近は銹付けした作品は少なくなったが、早川家に伝わる銹付けを教えていただいた。まず乳鉢で砥の粉を細かく磨り潰す。それに水を加えシャバシャバ状態にする。さらに膠(にかわ)を溶いたもの、墨汁を加えその液を刷毛で籃全体に塗り付け、後は自然乾燥、乾いた後籃を磨けば完成となる。研修生からも、松煙、ベンガラ、カシューなど使った銹付けなどの話が出て、全国的にみると多彩な銹付けがあることがわかる。ここまでで研修予定が終わったので、先生よりこれまで習った技法を自由に自分の作品に取り入れて活かしてくださいとのこと。研修生もこれまでの熱心な指導に感謝して終了となる。

 11月 8日

 最終日。松下美術苑を見学する。

                                 (谷岡茂男 記)

 第55回 日本伝統工芸展図録より転載



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2008