NIHON KOGEIKAI

重要無形文化財「螺鈿」伝承者養成研修会

講師:北村昭斎(重要無形文化財保持者)

平成21年 9月14日更新


要 旨

 この研修会には日本工芸会正会員、準会員合わせて9名が各地から参加 してくれました。技法の研修と共に、文化財の宝庫である奈良の地に伝 わる厚貝螺鈿の名品、国宝や重要文化財、復元模造などを春日大社、正 倉院事務所、大和文華館で見学し、先人達がいかに厚貝螺鈿の美しさを表現したかを学びました。第1年次は彫込式(ほりこみしき)、埋込式(うめこみしき)の基本技法習得のために習作の手板を制作しました。第2年次はその応用として各人が得意とする技法に螺鈿を組み合わせ、小箱を制作しました。この経験を活かし、螺鈿の世界がより広がることを望みます。

                           重要無形文化財「螺鈿」保持者
                                     北村昭斎


 国庫補助による平成19年度、20年度重要無形文化財「螺鈿」伝承者養成研修会が重要無形文化財保持者の北村昭斎氏を講師に迎えて行われた。


受講者の作業風景(北村昭斎工房)。


 期 間 平成19年11月19日〜23日(5日間)
     平成20年 6月16日〜20日ほか10月31日(6日間)

 場 所 北村昭斎工房(奈良市内)

 受講生 9名
 助 手 3名

 内 容

     初年度  1  手板(習作)を2種類の技法で制作
          2  厚貝螺鈿の名品(国宝、復元模造)を見学

     次年度  1  初年度の手板制作の続きと小箱の制作
          2  厚貝螺鈿の名品(重文)と厚貝加工工場の見学


 第1年次(平成18年)

 第1年次彫込式(ほりこみしき)と埋込式(うめこみしき)の2種類の螺鈿技法で1枚ずつ手板の制作を行う。また厚貝螺鈿の名品や北村先生が携わられた復元模造などを見学し、厚貝螺鈿への理解を深める。



螺鈿下図に従って厚さ1mmの白蝶貝を糸鋸で切る。

11月19日

 研修全体についての説明に続き、螺鈿技法について歴史的、技術的な事など講義を受ける。螺鈿は素材の美しさに負うところの大きい技法なので、材料を活かす事を考えるようにアドバイスを受け、実習が始まる。

<彫込式螺鈿手板(以下彫)1>あらかじめ用意された図案で、どの部分にどの貝を使うのか考える。夜光貝(やこうがい)は様々な色調の輝きを放つこと、白蝶貝(しろちょうがい)は白を基調にしたメタリックな印象、黒蝶貝(くろちょうがい)は濃淡が美しいが大きな文様は取り難いなどの貝選びに関する説明を受けた上で貝を選ぶ。

<彫2>紙にコピーした図案をパーツごとにナイフで切り離 して貝の上に糊で貼り、その線に沿って糸鋸(いとのこ)で貝を切っていく。

<彫3>各自で漆下地をして黒漆で中塗りまで出来た手板に 切った貝を文様通りに糊で仮貼りする。

<埋込式螺鈿手板(以下埋)1>各自で考えてきた図案を先生 に見て頂き、注意点などについて指導を受ける。


下図通りに切られた白蝶貝と黒蝶貝。

11月20日

<彫4>仮貼りした貝の輪郭に沿って針を使って毛描(けが)き(引っ掻いて漆塗りの面に傷を付ける)を行う。

<彫5>毛描きの線に沿ってナイフを使って漆塗りの面を彫り込んでいく。


春日大社宝物殿にて見学。

午後からは春日大社(奈良市内)にて国宝蒔絵(まきえ )の箏(こと)(復元模造)・国宝金地螺鈿毛抜形太刀(きんじらでんけぬきがたたち)を、正倉院事務所(奈良市内)で正倉院宝物螺鈿箱(復元模造)を見学する。先生から詳しい解説を聞きながら、間近で作品を見せて頂き、厚貝螺鈿に対する理解を一層深めることが出来た。

11月21日

<彫6>彫り下げた凹みに麦漆(むぎうるし)(小麦粉と生漆を混ぜた接着に用いる漆)で文様の貝を貼っていく。貝の周囲に隙間がある場合は錆漆(さびうるし)(砥の粉と漆を混ぜ合わせた細かな下地)で埋める。

<埋2>紙にコピーした図案をナイフで切り抜いて貝の上に糊で貼り、その線に沿って糸鋸で貝を切っていく。


正倉院事務所にて見学。

11月22日

<埋3>各自が糊漆で布を貼り、布目に漆下地を擦り込んだ状態まで進めた手板に糊を混ぜた麦漆で文様に切った貝を貼 る。

<彫7>砥石で貝の上を研いで漆塗り面との高さを揃えていく。この後も漆を塗り重ねるので、その厚みを考慮しながら研ぐよう指導を受ける。研いで高さが均一になったら、全体に刷毛で黒漆を塗る。

11月23日

<埋4>下地を付ける。貝の際とその他の広い面とで下地の粒子の細かさを変え、毛の短い筆などで擦り込むように付けていく。

<彫8>黒漆が乾いたところで、貝の上に塗られた漆を弾力のある金属の箆(へら) で剥がす。今後の進行について先生から指導と確認を受けて、初年度の研修は終了した。


 第2年次

 初年度に続き2種類の手板と小箱の制作を進める。
 また、貝加工工場や厚貝螺鈿の名品を見学する。



大和文華館にて見学。


貝加工工場の見学。

 6月16日

各自で進めておいた手板と小箱の進行状況を確認。

<彫9>各自で既に艶上げまで進めて来ているので、最後に文様の上に刃物を使って毛彫(けぼり)(線を彫る)を施して完成。

<埋5>貼り付けた貝の厚みと同じ高さまで下地を付けているので、炭粉や砥の粉で研磨して、この後の漆塗りの厚み分だけ下地を低くする。

<小箱>各自が持っている専門の技法と螺鈿を組み合わせて加飾を構成する。先生のアドバイスを受けながら今まで手板制作で経験した工程を参考に作業を進める。

 6月17日

小箱の制作工程などでそれぞれ差があるので、各自で作業を進める。

<埋6>黒漆で中塗りを施す。

 6月18日

午前中、大和文華館(奈良市内)を訪れ、本阿弥光悦作と伝えられている重要文化財沃懸地青貝蒔絵群鹿文笛筒(いかけじあおがいまきえぐんろくもんふえづつ)と、李朝時代の螺鈿葡萄文衣裳箱(らでんぶどうもんいしょうばこ)を間近で見学する。午後から貝加工工場(大阪府和泉市)に移動し、貝殻から板状の貝に加工するところを見学する。


小箱制作貼り付けた貝を研ぐ。


完成した手板と進行中の小箱。

 6月19日

<埋7)中塗りの漆面を炭で研ぐ。平らな面が平滑になるまで漆塗りと炭研ぎを繰り返し、最後に上塗りを施す。

助手の北村繁氏の指導で、貝の表面に文様を毛彫りするための刃物を製作する。材料となる使い古した鑢やすりなどの先の部分をガスバーナーで熱して柔らかくし、鑢を使って刃の形に削っていく。形が出来たら再びガスバーナーで熱して焼入れ。砥石で刃を整えて完成。

 6月20日

午前中、各自で工程を進めて作業は終了。後は各自で仕上げる。それぞれの手板、小箱を前に先生から講評と総括。助手の方々もそれぞれの感想を述べられた。受講者もこの研修で学んだ事、得たものなど感想を話し合った。

10月31日

各自で仕上げた手板と小箱を持ち寄り、先生に講評を受けた。

                           (柏原由貴子記、助手北村繁編)

   

 第56回 日本伝統工芸展図録より転載



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2009