NIHON KOGEIKAI

重要無形文化財「彫金」伝承者養成研修会

講師:増田三男(重要無形文化財保持者)

平成12年 9月18日更新



  デザインの講義

 国庫補助による平成10年度・平成11年度重要無形文化財「彫金」伝承者養成研修会が、重要無形文化財保持者の増田三男先生を講師に迎えて行われた。

 期間:平成10年 5月15日〜6月14日(5日間)
    平成11年 6月 6日〜7月 7日(5日間)
 場所:黒木アトリエ(東京都品川区)
    東京芸術大学彫金研究室(東京都台東区)
 受講生:7名(日本工芸木金工部会正会員)
 内容:初年度 金工作品デザインの講習
        蹴彫鏨(けりぼりたがね)、木鏨(きたがね)の制作
    次年度 伝承と新しい伝統の創造の講習
        裏打出(うらうちだし)、蹴彫、鏨透(たがねすかし)、金銷の実習


 
道具の講義

 第1年度の5月15日に、品川区の黒木アトリエで開講された。研修会では、一年次、基礎知識を有する者へのデザイン、二年次、彫金全般との計画が示された。

増田先生の東京美術学校時代の習作を始め、代表的な作品を前に70年間に制作され培われた作品制作の姿勢やデザインの考えをご教授いただいた。講義の内容を簡単であるがまとめた。


 
下絵の指導

「作品は感動(ムーブマン)から生まれるものでなければならない。そして制作の基本姿勢として、まずデザインとは制作全体の計画であり、単に模様を考える図案とを混同してはならず、作品を通して訴えたいデザインは、作品が完成するまで貫かれたものでなければならない。
造りたいので造る。即ち感動というファクターは日常生活において感性を高めるところからはじまる。
美しい花はない。花の美しさは自身の内に見つけるものである。『美は向こう側にあるのでは無く、こちら側にある。』という高村光太郎の言葉は<感動>の創作活動における重要性を表したものである。
模様には抽象と具象があり、前者には作者の心象性が必須なものであり、それが感動を生み出す。後者にも心象性は必要であるが、写生が絶対条件となる。
模様制作は写生を通して自由に構成でき、対象を考え、構成、再構成し、作者の美意識や高度な制作技術を土台に造形的に纏める操作である。


 
鏨(たがね)制作実習

 デザインが平面と立体の両者一体となって成立するのは身体と着物の如く、形と模様は一体でなければならない。
 工芸は形である。それは訴えるために決定する形と用途から決定する形の二つがある。その造形諸素として、量感、面、動態、触覚があるが、それらはあらゆる角度から検討されなければならない。
 例えば量感とは面の容積や量の方向性を示す運動である。その均衡による調和と色彩のバランスを内包した統一的造形性となって美が生じる。
更に実技としての手が働き、身体全体の触覚要素が加味されて作品全体が構成されるのである。触覚的要素は時にはデザインが生まれる母体である。素材の異なる陶器、染織、漆芸、金工等はそれぞれの特性に応じたデザインを生み出す。また各種の素材の特質の深い研究を心得たデザインでなければ、良いデザインとは言えない。素材は表現技術と技法の相関にあり、技術に走りすぎてもいけないが、新しい表現を必要とする時には大胆にも壊さなければならない。
 この様に、作品制作についてデザインに要する時間と制作に要する時間の割合はデザインの方が多くなる。」


地板に下絵複写実習

 初年度は伝統技術と新しい技術についての講義、蹴彫の実習であった。銀板2枚(970SV・20×20B)、純銀板1枚(10×10B蹴彫の銷分)、真鍮板1枚、鏨の株が支給され、各自蹴彫鏨5本、木鏨8本を制作する。各自が自由にデザインし、図案について増田先生に指導いただく。

地板に図案を書き、脂台に張り付けて蹴彫の実習が始まった。70年の長きに亘ってのご経験から、蹴彫の銅板の厚みは0.42@が最適であり、それが0.01@厚くても薄くてもやりづらいとのお話であった。


  蹴彫(けりぼり)の実習

第二年度も初年度と同じく黒木アトリエでの開講となった。毎日午前中は初年度の総まとめの講義、彫金の伝承技術と創造についての講義で、午後からは初年度の続きの彫りの実習であった。更に切り鏨で鏨透かしの実習が加わった。

 「彫金で最も大切なのは鏨である。総ての技術をいつも使う訳ではないが、各自が鏨を制作し、使い方を会得するのには5年位はかかるとみる。そこから独創の世界に進むには、独創の技術が伴わなければいけない。独創の技術は伝統の技術を極める事が必要である。その土台があって独創が生まれるのである。伝統は因習ではない。伝統芸術(技術)は肯定しつつ受け継ぎ、否定しつつ新風を送り込む事の繰り返しである。
そして素材を生かし、技術を隠してこそ表現の真髄が生まれるのである。金属の柔らかい表現をするには薄い素材が良い。薄さは素材によって変わる。例えば純度970の銀は0.42@厚、日本真鍮は0.42〜0.45@厚が適当である。厚さや純度はテストによって適当なものを決定する。」


鏨透(たがねすかし)の実習

 7月4日、場所は台東区上野公園の東京芸術大学彫金研究室へと移り、鍍金の実習が研究室内にある金銷室で行われた。増田先生の道具は手造りのものが多く、水銀が上がらない様に鉄棒に銅棒をロウ付されたり、銅棒に糸を巻いて漆を塗った、工夫が凝らされたヘラなどを見せていただいた。最後に受講生らの作品の写真撮影、研修会の感想と感謝を増田先生に述べて二ヶ年にわたる研修会が終了した。


金銷(きんけし)の実習

 増田先生の研修会は初年度、次年度も一つの主旨で貫かれたものであった。「研修会として技術を伝承するのではなく、総てのもののデザインを最重要とする。そのデザインをどの様に考えるか、考え方を伝える事が伝承である。」

それは70年の長きにわたって貫かれた創作活動の根幹ではなかろうか。彫金は鏨が使えなければ仕事にはならないが、修練を積めば誰でも技術は習得出来るものである。技術よりまず先に、増田先生が我々にお伝えになりたい永年の思いをご教授いただき、先生のお人柄に触れる機会に恵まれた素晴らしい研修会であった。

(桂 盛仁記)


研修作品の額装

講演参考文献

『工芸概論』 前田泰次著  東京書籍
『造形美論』 高村光太郎著 筑摩書房
『美について』高村光太郎著 道統書房
『製陶余録』 富本憲吉著  昭林社


第47回 日本伝統工芸展図録より転載



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2008