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重要無形文化財「練上手」伝承者養成研修会

松井康成氏(重要無形文化財保持者)

平成14年 7月29日更新



  東京国立博物館にて所蔵品の観察

 国庫補助による平成11年度・平成12年度重要無形文化財「練上手」伝承者養成研修会が、重要無形文化財保持者の松井康成先生を講師に迎えて行われた。

 期間:平成11年10月19日、26日〜29日(5日間)
    平成12年10月23日〜27日(5日間)
 場所:東京国立博物館(東京都台東区)
    松井工房(茨城県笠間市)
 受講生:10名(日本工芸陶芸部会正会員)
 内容:初年度 中国唐・宗時代(主に宗の磁州窯)
        の練上手作品の倣古的技術研修
    次年度 オリジナル作品の制作


  土に硅酸鉄微粉末を練り込む

 第一年次初日の10月19日は、東京国立博物館にて次州窯の作品を観察し、その技法を探究する事から始まった。

東京国立博物館東洋課主任研究官今井敦氏立会いの下、「白釉絞胎碗」、「白釉絞胎盤」、「緑釉絞胎碗」いずれも(北宗時代)、
また唐時代の絞胎盃などの貴重な所蔵品が展示され、今井氏、松井先生の解説を受けながら各自メモを取り写真におさめ、
また手に取ってその造りを確かめるなど、またとない貴重な体験となった。


       白と茶の土を薄く切り交互に重ねる        重ねた土を薄く延ばした後、数段重ねて一定の厚味で切る

 10月26日からは、松井工房にて磁州窯の作品を再現する実技となった。技法上まったく同じに再現する事は困難であるので、
それぞれの模様を出す為の技法を用いて器を作るという事になる。土の色は白と濃茶(硅酸鉄微粉末による)の二色、
ベースとなる土は松井工房で用意した物、型は同じく松井工房で用意した石膏型、または各自用意した型を用いた。
最初は硅酸鉄微粉末をベースの土に練り込んでいく事から始まる。先生よりまぜる硅酸鉄の分量が指示され、またダマになったり
柔らかすぎたりしないよう注意がされる。

 次に練り上がった色土及び白土を各々20B×30Bのたんざくとし、これをたたら板とワイヤで薄く切って交互に重ねていき、
すべての文様の基本とする。5〜6段重ねた所でこれを薄くするのであるが、先生は手刀を使って実にリズミカルに延ばしていく。

この間に、接合面はこすれあい、空気は押し出され、方向を90度変えながら組み合わせた物が網代文、線文を切っては積み上げ、
段数を多くしてから両木口を同一方向にこすり上げた物が鶉文、反対方向にこすり上げ。鏡合わせにした物が柳文となる。

これらの模様を施したブロックを必要な厚さに切り、円盤状にまとめた後に、型の上でたたき成形して碗や盤、盃の形にしていくのである。
いずれの工程においても、重要な事は粘土同士をよく密着させ、空気をおい出す事である。


柳文を作るために一方向にこすり上げる

ここで先生は、指で粘土をたたいて締めていくという方法を示した。
この方法は松井先生独自のものであり、乾燥段階での割れを防ぐのに非常に効果的なのである。先生は指でたたく事による
文様のくずれを最小限におさえ、かつ力強く締めていく。

一方の受講生たちは、やはりおっかなびっくりといった感じで
力が入っていない様子である。「もっと思いきって土の中まで気持ちが届くように」と先生の言葉がかかる。


柳文のパーツを円盤状にまとめて行く

 工程は円盤状の粘土を型にかぶせて成形する段階となる。
「厚みのバランスを考えて、できるだけ薄く作るように」と先生から指示をいただく。

練上は異なった成分の土を組み合わせていくために、乾燥、焼成の際に収縮の違いによるひずみを生じる。このひずみをうまく逃していくような
形と厚みのバランスが重要となる。各自、型の上でまた指で締め、たたき板などを使って成形していく。

作品はこの後で型からはずされ、生乾きの段階でカンナでけずり形を整えるのであるが、やはりここでも厚さのバランスが重要となる。
今回は文様が小さく、作品も小さかった事により比較的成功率が高かったが、それでも指締めの不足やバランスの悪さから、
割れの入った作品が2〜3見られた。受講生たちは普段は練上手をやっていない者がほとんどである。一年次を通して、土の扱いの違いや
道具の違いなどを実感できたものと思う。

今回はカンナがけまでで終了となり、各自作品を焼成して二年次に持参する事、オリジナル作品を考え準備する事を確認して解散となった。


指でたたき締めて、よく密着させる

 第二年次は初日の10月23日より各自オリジナル作品の制作となる。
まず、一年次に制作した作品の講評である。各自、自房において透明釉をかけて焼成した作品をならべる。多少の変形や文様の
違いはあるものの、磁州窯の雰囲気がよく再現されており、先生より「概ね成功している」との評をいただく。

 今回、松井工房より土、顔料などの用意もされていたのだが、受講生の中には自分で土を調合してきたり、青の顔料を用意したり、
内籠めの陶筥の型やスチロール樹脂を成形した型を持ってきた者など、一年次の経験からの工夫が見られる。
文様についても独自なデザインを考えるなど、真剣な取り組みが感じられる。

 今回、先生は各々の制作を見守る側に立ち、受講生が困っている時や誤った方法を取っている時にアドバイスされたり、
また自らやってみせるという立場をとられた。文様を作るのに夢中になり、土の水分が失われていくと、
他のパーツとのむらを生じ乾燥段階でひずみとなり割れてしまう。「そのパーツをビニールに包んでおくように」先生が度々
声をかけとられた。

 実技は作品を焼成する所までで終了となった。その間にも割れた作品の修理の方法やデザイン上の注意など、先生より
多くの指導がなされた。


  石膏型にて成形する

期間中の一日、茨城県陶芸美術館において、松井先生のコーナーを見学する時間が設けられた。
作品の一つ一つが、長年の研究の成果と緻密な計画、そして努力の積み重ねによって成り立っている事を各々再認識する事となった。


オリジナル作品の制作

 平成13年5月、受講生めいめいが持参した作品を前に、講評会が催された。先生は一つ一つ手に取って各自の作品についての感想を披瀝された。
受講生たちは、二年度にわたる貴重な体験を基に、更に研鑽を積んで、独自の陶芸を確率してゆくことだろう。

(松井庚陽 記)


第48回 日本伝統工芸展図録より転載



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2008