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重要無形文化財「鍛金」伝承者養成研修会

講師:奥山峰石(重要無形文化財保持者)

平成23年 9月21日更新


要 旨

 今回の研修会には、6名の研修生が参加致しました。工房の広さ、鍛金という仕事の音の問題もあり、二組に分かれて一期、二期と2週間ずつ行いました。それぞれ教わってきた事に違いもあり、まず2週間でどれだけの事が教えられるかを考え、私の鍛金の基本を教える事にしました。伝統工芸には一番大切だと考えている細部の道具の使い方や仕上げの仕方などを覚えていただけたと思っております。6名の皆さんが良い作品を作り次世代にまで技術を継承される事を願っております。

                           重要無形文化財「鍛金」保持者
                                     奥山峰石


 国庫補助による重要無形文化財「鍛金」伝承者養成研修会が平成21年、22年と1年にわたり重要無形文化財保持者の奥山峰石氏を講師として自宅工房において行われた。

 各年3名ずつ二班に分かれ1週間ずつ(8月半ばの2週間)、延べ4週間の研修になった。  研修の主題は「鍛金の打ち込み象嵌とめ象嵌技法による花器」の制作で、制作工程を通して技法の基礎的な技術を学ぶことを目的とした。


 一年次

 第一年次は鍛金技法で本体となる銀の花器を制作する。研修に入る前に概要の説明や諸注意を受け、初めに打ち込み象嵌と切嵌め象嵌の希望を取り、模様は各自のデザインとすることとして花器の形が出来上がった時点で順次取り掛かることとする。

 研修の日程に鑑み花器の形状は奥山氏が予め決めておき、その型紙に沿って絞ることにする。用意された直径30cm、厚さ1mmの純銀の地金をし(バーナーで加熱して徐々にさます作業)した後、絞り(平らな薄板の地金を鎚で叩きながら立体的に整形する作業)に入る。

 出来上がりの寸法精度を出すために桶状に絞ってから花器の図面をもとにした型紙が用意され、それに合わせた当金に沿って花器の形に締め鎚(角が丸くとってある鎚)で整形していく。絞り加工は焼鈍し作業と絞り作業を十数度繰り返すことである程度求める形ができる。

 形が型紙のとおり出来上がると、表面をきれいにするし作業に入る。絞り加工は当金から地金をほんの少し傾斜させてあてがい、浮かせた状態で叩く。これに対し均し作業は当金の形状に合わせ、均し鎚(平らな面を持つ金鎚)で細かく、表面をなるべく平滑になるよう丁寧に、器物全体を少なくとも3回は叩いていく。叩きすぎるとその部分だけ張り出し、凸凹になるので注意を要する。特に打ち込み象嵌の作品は、後々の工程のために均し作業を丁寧にきめ細かく均し上げる必要があり、丸一日均し作業の日もある。

 花器の形ができた研修者から、(模様になる部分の金属、文金とも表記する)の切出しをする。予めデザインされた模様を(銅と金の合金)・(銀と銅の合金)・銅等の地金に写し、糸鋸を使って切り出す(打込みの場合の地金の厚さは0、4mm、切嵌めの場合は1mm)。

 切出しが終わった後、切口をヤスリで整え、ロウ付け(銀ロウを使い金属と金属を接合する作業)する面をキサゲという工具で酸化膜を取り除き、花器の曲面に合わせて紋金のロウ付けをする。切嵌めの場合は紋金を本体に合わせその部分を切り抜き、合わせ口を斜めにヤスリで削り、落ちないようにして嵌め込みロウ付けをする。

 からげ(紋金を特殊な針金で花器本体に縛りつけ固定する作業)後に溶剤に当たるを全体に塗布し、余熱を与えながらバーナーで加熱していく。加熱で緩んだり浮き上がったりした箇所を直してから銀ロウを全体にまわし、紋金を溶接しロウ付けを終える。

 その後ロウ付けで汚れた表面をきれいにするため、酸洗い(希硫酸に浸す作業)した後、ロウ払い(余分にはみ出た銀ロウをヤスリやキサゲ等の道具で削り取る作業)をし、生地と模様の境を明確にする。

 ロウ付けが終わり、順次打込み作業に入る。木槌を使用し器形を変えないように紋金の部分を強く叩く、そして焼き鈍すという作業を繰り返しながら全体を4〜5回叩くことにより、紋金が花器本体の銀の厚みの部分に食い込ませる。このときなるべく段差が無いくらいまで叩いておく(打ち込んだ部分はほぼ均一の厚みにする)。この工程の途中で一年次の研修の期日を迎え、ロウ払いなどの下処理のできなかった研修生は自宅に持ち帰り、1年後の研修までの宿題となる。


 二年次

 二年次は打込みの作業から始まる。木槌による打込みを終えた段階で均し鎚(金鎚)に替え、本体を均していく。紋金の硬さの違いにより花器本体への影響が出てくる歪みを微調整しながら、鈍し、叩きを何度か繰り返し、表面を平滑にして形を整える。終盤の数日は打込みや均す作業のみとなる。

 焼鈍しをするときの注意点は、融点の低い紋金を溶かさないようにしなければならないことで、その際は部屋の照明を落とし真っ暗な状態でバーナーの火を弱めて丁寧に加熱し、紋金が赤く浮き出た状態で火を止める。焼鈍しをすると紋金に酸化膜が付くので、酸洗いをした後に均しに入る。

 打込みの作業を終えて、順次研磨作業に取り掛かる。名倉砥石で紋金の上やその周りを丁寧に研ぎ出す。切嵌めの文様には毛彫りで輪郭や景色を入れ、その後毛彫り部分に(古来のメッキ技法)を施し、後に全体の最終均しをする。底部に落款を彫り、仕上げ前の下処理に掛かる。

〈最終の仕上げ〉

 最終日に研修生6名合同で仕上げ作業をした。仕上げ作業の場は、東京都立工芸高校のアートクラフト科の実習室を借りて行った。

 まず金属工芸の仕上師の原信人氏にご協力を仰ぎ、煮色仕上げの基本形を覚えてもらうため、一通りの工程を見せていただく。研修生がそれに倣い、個々の作品の仕上げに順次掛かった。下処理のため、梅酢や大根おろし汁など身近なものや、(磨砂の一種)などを使い、表面の酸化を防ぐために素早く煮色液に浸すなど慌ただしい作業が続く。最終の仕上げに(古色仕上げ)を施し、太陽光に当て感光させる。重曹で表情を付け最終の仕上げを施し、全ての研修生の作品の完成を見る。

 全工程を終え、作品を前にして講評を頂き、2年間にわたる充実した研修を終えた。

                                  (大沼千尋 記)

   

 第58回 日本伝統工芸展図録より転載



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2011