NIHON KOGEIKAI

重要無形文化財「蒟醤」伝承者養成研修会

講師:太田 儔(重要無形文化財保持者)

平成15年 7月 8日更新



  太田氏と受講生

 国庫補助による平成13年度・平成14年度重要無形文化財「蒟醤」伝承者養成研修会が、重要無形文化財保持者の太田 儔先生を講師に迎えて行われた。

 期間:平成13年11月26日〜30日(5日間)
    平成14年11月25日〜27日・12月 9日〜10日(計5日間)

 場所:香川県漆芸研究所(高松市番町)
 受講生:7名・聴講生1名・助手1名
 研修主題:「籃胎蒟醤八角小箱」の制作
 内容:初年度 籃胎素地の製作
    次年度 蒟醤工程


木型見本

 まず、籃胎について歴史を中心に講義が行われ、その後今回製作する八角小箱の完成見本を見ながらこれからの研修内容の説明を受け、早速実習に入った。


木型の製作

(1)木型制作工程
籃胎には網代を編み付ける木型が必要である。今回はすでに数枚の板を貼り合わせた寄木材を準備していただき、その直方体から鋸と鉋を用いて身と蓋の型を製作する。この木型はこれからの素地作りすべての基準となるため、木工の基礎技術指導のもと精密な型作りを行った。


竹ひごの製作

 ミャンマー製のもの、内国勧業博覧会に出品された明治初期頃の籃胎漆器等を間近で観賞し、その多様性についての講義があった。そしてその際、制作していく上で過去の作品から学ぶべき事の重要さを説かれた。

(2)竹ひご作り工程
身と蓋の網代作りに必要な竹ヒゴを作る。すでに油抜きを終え、薄く剥がれた真竹を用意していただき、そこから幅決め・厚さ決め工具を用いて幅1.43氈A厚さ0.25〜0.3氓ノなるように削っていく。昨日の木工技術に加え、今日は竹工の技術が必要となり竹についての基礎知識を教授していただきながらの作業となった。


網代編みの工程

(3)網代編み工程
製作した竹ヒゴで蓋の天部分の大きさに合わせて八角形の網代を編む。編んだ網代を蓋の木型に貼り付け残りのヒゴは折り曲げて側面の立ち上がり編みに繋げる。高さに必要な長さまで編み上がったら小鋲で留めておく。


  籃胎成形工程(麦漆付け)

香川漆芸の祖である玉楮象谷(たまかじぞうこく)が手がけた蒟醤料紙箱のX線写真を見ながら当時の籃胎の構造を解説していただく。他の素材とは異なる竹の特質を充分生かした形体での作品作りを奨励された。

(4)籃胎成形工程 麦漆付け
編み上がった網代全体に二回麦漆を付ける。


籃胎成形工程 麻糸巻き

(5)籃胎成形工程 麻糸巻き
全体の麦漆が乾けば側面のみに麦漆を付けて麻糸を固く巻き上げていく。巻き終えたら八角全てに当て木をしてクランプで充分締め、麻糸の接着をより強固なものにする。麦漆が乾いた後麻糸全体に生漆を刷り込んで再び乾かす。

これ以降の素地制作は、来年研修時までの課題となり1年間かけて籃胎素地を完成させることになった。


自宅研修の様子(麻布着せ)

(6)下地工程
網代、麻糸の凹部分に切り粉錆を摺り込み、軽く水研ぎした後全体に麻布着せをする。その後切り粉錆付けをして、素地整形を行う。

(7)塗り工程
形が整ったら捨て中漆、カーボン入り黒呂色漆そして十回程度の塗り重ねに入る。ここに施される蒟醤は細密な彫りになるため、塗り重ね時は細かな艶も残さず水研ぎすることが大切である。上塗り後は炭で刷毛目の凹凸を研ぎ落とし、彫れる状態にして摺り漆をしておく。


2年次の講義の様子

 初日は蒟醤の講義から始まった。蒟醤剣、中国の填漆及び日本の蒟醤の種類について、また今回の研修課題となる布目彫りの特色である網膜混合について学習する。

そして、文化庁企画の工芸技術記録映画「蒟醤 太田 儔のわざ」を観賞し、映像にて実際の混色効果を解説していただいた。

今回はこの網膜混合を意識しての図案作りとなった。その後7名それぞれ完成した素地を確認していただき、手板への布目彫りの実習に入る。目の前で彫り工程を見せていただき道具の説明を受けて各自彫りを進める。


蒟醤彫りの様子

(8)蒟醤図案決定
各自試案を提出し技術的な助言を受け図案を決定する。

(9)1回目蒟醤彫り
前日の布目彫りに図案を写し、その輪郭に線彫りと潰し彫りを加える。

午後からは高松市美術館へ移動し、「蒟醤 太田 儔展」を鑑賞する。この展覧会は約三十年間に渡る作品二十二点が並べられており仕事の変遷を一望できるようになっていた。技法のほとんどは蒟醤でありながら時代あるいは作品によってそれぞれ試行がなされており、そこから次の作品へと繋がっている過程を作品を前に解説していただき有意義な鑑賞となる。


1回目蒟醤色埋め作業

(10)1回目蒟醤色埋め工程
彫った部分に1回目の色漆を充填する。

(11)1回目炭研ぎ工程
充填時の余分な色漆を炭で平らな状態まで研ぎ付ける。


2回目の蒟醤彫りの様子

 太田先生自ら二回目蒟醤色埋めをしていただいた。色漆の粘度、塗りの厚み、筆を用いた塗り方等留意点を聞きながら実際目の前で確認できる好機となった。

(12)2回目蒟醤彫り 研ぎ出した色漆の上から再び全体に布目彫りを行う。


2回目の色埋め作業

 今回充填する色漆を見ていただく。色を重ねることでより効果が出るような構成へと、また顔料の使用法、乾燥速度調整等の指導を受けながら色を決定する。

(13)二回目蒟醤色埋め工程 彫ったところに決定した色漆を一回目同様充填していく。
今回の研修では時間の都合で手板での蒟醤彫りまでとなったが練習を経て籃胎小箱へ蒟醤を施していく。


2年次の自宅研修(炭研ぎ)

この後の工程として

(14)二回目炭研ぎ工程
(15)仕上げ工程

研磨剤、摺り漆を数回重ね漆面を磨いて艶を付ける、となる。

 最後に太田先生は籃胎という香川に伝わる優れた技法を大切に、そして布目彫り表現の可能性はまだ未知数であることに触れられ、今回の研修を機に技法を発展させ独自のものを創造することを今後の課題にして欲しい、という言葉で締めくくられた。

二年間に渡る研修への感謝の意をこの課題へ実践的に取り組むことで表してゆきたいと感じている。

(高橋香葉 記)


工芸会資料より転載



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2008