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重要無形文化財「志野」伝承者養成研修会

講師:鈴木 藏(重要無形文化財保持者)

平成19年 9月18日更新


要 旨

「初心忘るべからず」。最初に取り組んだ時の心持ちや目的を忘れないことだとよくいわれていますが、原典の『花鏡』には三つの意味があるそうです。「是非、時々(じじ)、老後」の三つの初心を忘れるなと言っています。是非の初心、修業ときどきの緊張感、老いても初めてのことに取り組む意欲。この三つの初心を保てば、芸は一生涯向上するということだそうです。

それは、絶えず古典から学び教えられ研究することによってのみ可能であり、独自性と新鮮な表現も自から出て来るものだと思っております。解りやすくいえば温故知新です。そこで、この伝承者養成研修会は古典の研究をコンセプションとしてすすめました。中国と日本の陶磁の名品による比較と、桃山陶(志野・織部)の産地と上方との比較が出来ました。ここで見たものは、向付が最も多く、この向付は和食器の嚆矢(こうし)だとも考えられることから向付を作ることに決めて、使うことの大事さと難しさ、それと楽しさをも学ぶことをテーマといたしました。

                            重要無形文化財「志野」保持者
                                      鈴木 藏

多くの先生方にお世話になりました。ここに記して感謝の意を表します。(順不同) 愛知県陶磁資料館。伊勢崎淳先生。京都市考古資料館館長永田信一先生。京都市埋蔵文化財研究所調査課長・吉崎伸先生、資料係長・中村敦先生。東京国立博物館。安藤貞男先生。今井静男先生。土岐市美濃陶磁歴史館・加藤真司先生。土岐市美濃焼伝統産業会館館長・河合竹彦先生。高島写真事務所。日本料理「水野」。小林小夜子先生。(株)レーヴ・安田正様。


 国庫補助による平成17年度、18年度重要無形文化財「志野」伝承者養成研修会が重要無形文化財保持者の鈴木藏氏を講師に迎えて行われた。


桃山陶の出土品を見学する(京都市考古資料館・埋蔵文化財研究所)

期 間 平成17年4月25日、10月26日、11月14日、 11月29日(4日間) 平成18年4月9日、6月22日、9月12日〜13日、 10月26日、11月22日(6日間) 平成19年1月25日、4月19日、4月30日、 5月20日(4日間・自主研修)

場 所 愛知県陶磁資料館、京都市考古資料館、 京都市埋蔵文化財研究所、東京国立博物館、 土岐市美濃陶磁歴史館、土岐市内の古窯跡、 土岐市美濃焼伝統産業会館、 鈴木藏アトリエ(岐阜県多治見市内)

受講生 10名(助手2名)

内 容 初 年 度 博物館、資料館、桃山期の窯跡などの見学及び調査 次 年 度 向付の制作 次々年度 釉掛け及び本焼成



出土品は消費地の発掘なので完器が多い(京都市考古資料館・埋蔵文化財研究所)

第1年次 博物館見学などをとおして、日本陶磁と中国陶磁の代表的なやきものの比較をし、日本を代表する桃山時代の美濃古陶を改めて見直すことを目的とした。

4月25日 愛知県陶磁資料館において開催中の特別展「桃山陶の華麗な世界」展を見学。井上喜久男主任学芸員の説明及び、講師の話を聞きながら見学する。見学後、講師より今回の研修会についての大まかな流れの説明を受ける。

10月26日 京都市考古資料館および埋蔵文化財研究所において永田信一館長、吉崎伸氏(調査課長)、中村敦氏(資料係長)らの説明のもと京都市内において出土した桃山陶の陶片を見学。たくさんの陶片を手にするという幸運に恵まれた。


高根山古窯跡にある大窯のレプリカを見学する

11月14日 東京国立博物館において研修会。日本の代表的なやきものである鼠志野鶺鴒文鉢、志野茶碗銘「振袖」、また中国の代表的やきものである南宋官窯青磁輪花鉢、青磁茶碗銘「馬蝗絆」を鑑賞する。

11月29日 土岐市美濃陶磁歴史館学芸員の加藤真司先生の案内で高根山古窯群、久尻元屋敷窯跡を見学する。その後土岐市美濃陶磁歴史館に移動、展示作品を見学の後、前回に引き続きたいへん多くの陶片に触れる機会に恵まれた。


第2年次 1年次に学んだことを礎に、講師の指導を仰ぎながら向付の制作を行った。

4月9日 昨年行われた研修会の感想文をそれぞれ持ち寄り、これまでの研修会で何を感じたのか、これからの研修会で何を学びたいのかをそれぞれが発表した。これらを踏まえて講師より今後の研修会の進め方についての説明があり、そして今回の研修会で向付を制作するに至った経緯についての説明を受ける。その後各自それぞれが制作する向付の形を同じ形が重ならないよう、話し合いながら決めた。

6月22日 向付の制作に取り掛かる。茶懐石に使用する向付ということで、その大きさに十分注意するようにとの講師からの説明を聞いてから、先の話し合いでそれぞれが決めた向付の形の土型を制作し始める。土のかたまりから収縮具合を考えながら形作って行く。


土型に蚊帳の切れ端を被せて、その上にタタラをのせて向付をつくる(土岐市美濃焼伝統産業会館)

9月12日 前回制作した土型をもとに、向付を型起こしする。原型の上に蚊帳を被せ、その上にタタラ土を被せて、指で押さえながら向付本体を形作っていく。出来上がったら型から取り出す。その後、タタラ板で高さを調整して、縁の余分な土を切り取ることになる。

9月13日 昨日に引き続き向付の型起こしをする。型から起こして縁の高さを揃えたものの中から、適当な硬さになったものに足を付け、カンナで表面を仕上げる。講師からは、足の付け方、表面の仕上げ方など、どうしたら力強くなるのかよく考えるようにとの指導があった。


土型から外した向付を、かたちが崩れないように粘土(ヨリ)を支う

10月26日 前回の研修会で一部持ち帰った作品が焼きあがったので、講師宅において講評会を行う。志野釉が掛かり試験焼成されたそれぞれの作品を前にして、受講生ひとりひとり意見を述べ合い、講師の講評を聞くという形で行われた。向付そのものの形、また茶懐石で使う向付ということで、実際に eq * jc0 * "Font:MS 明朝" * hps10 oac(sup 11(お),折) eq * jc0 * "Font:MS 明朝" * hps10 oac(sup 11(しき),敷)の上に載せてみて、飯碗、汁碗とのバランスなどからどの大きさがちょうどよいのかなど、.多くのことが話し合われた。この話し合いの結果、本来なら、次回の研修会は絵付けと釉薬掛けであったのだが、皆が現状に満足しないで自発的にもう一度作り直しもっとよい作品を作りたいということで一致した。このため次回の研修会はもう一度作り直すということを決めて終わる。


土型から外した向付を仕上げる

11月22日 前回の反省点をもとに大きさ等、それぞれ手直しを加えて持ち寄った土型をもとに、再度型起こしに挑戦する。型起こしの工程自体は前回と全く同じであるが、各自が反省点をもとに講師の指導を仰ぎながら手直しを加えて少しでもよい作品にしようとする姿勢が強く感じられた研修会であった。出来上がった作品はそれぞれが持ち帰り、次回研修会までに、各自で素焼きを焼いて持ち寄ることになった。


仕上がった向付


第3年次 向付に絵付け及び施釉、本焼成を行った。

1月25日 素焼きの終わった素地にそれぞれ鬼板による絵付け、化粧掛けを行う。化粧掛けを行った素地についてはもう一度各自素焼きを焼いて持ち寄ることとなる。


向付の釉掛け(鈴木藏氏アトリエ)

4月19日 志野釉を釉掛けする。釉掛けが終わったら、足の部分の釉薬をスポンジで落として、足が接着してしまわないように道具土で浮かした上でサヤの中に入れ窯入れをした。この後、5日間の本焼成となる。

4月30日 窯出しを行う。焼成後の向付を、道具土をとるなど仕上げの作業を行う。完成した作品を前にして講師より講評を聞く。


窯から出した向付(鈴木藏氏アトリエ)

5月20日 完成した器を料理店に持ち寄り、実際に懐石の器として使用した。折敷の上に飯碗、汁碗とともに並ぶことによって懐石としての向付の大きさを再確認する。改めて講師からのアドバイスを聞き、また、受講生それぞれがこの研修会をとおして勉強になったこと、感じたことを話し合い終了した(第3年次は皆で相談のもと自主参加で行いました)。 (助手 鈴木徹 記)

第54回 日本伝統工芸展図録より転載



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2008